<経歴>
1933年、静岡県生まれ、茨城県牛久市在住。
詩集『赤い花一輪咲きますよう』『白い心象画』『小さい花束』『刻をつなげて』『一本の樹木』『回游』『風を抱く』『白い闇』『つれづれ想』『市川つた詩選集一五八篇』。
日本現代詩人会、日本詩人クラブ、茨城詩人協会、「回游」、「新現代詩」、「光芒」、「詩林」、「こだま」、各会員。
<詩作品>
かかわり
樹と樹の間を飛び交うもの浸すもの
むささび 小鳥 霧 靄
そして朝陽または冷気
空を吸う梢と大地をつかむ根茎
樹と樹がスクラムを組む みえない腕
花と花が語り合いうたい合う
蝶やとんぼのささやきと風や柔らかな陽ざし
傾き合いゆれ合い溢れ合い
交差するふくらかなまなざし
行と行の間から放たれるもの翔び立つもの
引き合い ホトホトと胸壁をたたく文字
と 文字にならなかったものの
反射し合い照し合い
奥深く反響し共鳴する想いの発光
人と人とを結ぶもの支えるもの
思いといい願いといい
思慕といい憧憬といい
或は憎しみ拒否といい
首肯くもの敬うもの
侵し合い傾き合い相寄るものの
映し合い受けとり合い
照し合い抱き合う
やがてやさしい熟成
言葉と言葉 行と行 人と人
または物と人 物と言葉 言葉と人
万華鏡で醸しだす
間でしかない空間の隔てと傾斜の
無限の屈折の張りめぐらされた
巨大な関係 と あなた
手から離れて空杳く登って行く赤い風船
の 隔ての尚深いかかわり
分身(女の戦い)
1
二人目の子供を身ごもったと
喜びの電話があった
二人目はつわりがひどいと
少し落ち込んだ声
少し可愛そうで少し他人顔
姑の苦労もせず
のほほんと子育てをし
立派だと言えずとも
二人の子育てはすみ
巣立たせた
私の実績
これから十何年かのち
息子の家族と同居せねばならぬ時がきたら
空気のような 姑で居られるか
それなりに寄りかからず暮らしたいと
女の戦でもあるように
今から身構えてみたり
武器の一つもない老の身を端然と
座らせてみたりしている
2
女が詩を書き続けるということは
戦いだというが
戦いのない詩書きが一人位居たっていい
関心を持つことが一番大切だというが
憤りや 苦しみは紅絹につつんで花にし
矛盾や 悲しみは刻の流れに濾過させて
花鳥風月やさしく
我が分身として
ささいもない ゆらめきを捉え
風の行方を書き止めずにはいられない
私の生理
ささやかで どっしりと
花の中で花になっているのがいい
風の中で風になっているのがいい